流聲 ryusay ☆彡

五臓五腑ノリコのブログ。SINCE September 25th,2004

可視下不協和音

線路と車輪の擦れ合う轟音と、イヤホンから繰り出される美しい和音。女の聴覚は、双方が織り成す奇妙で心地よい不協和音に晒されていた。
連休明けの、程良い乗車率の車内。女には、いつも気に掛けていたことがある。
それは、後頭部。
視界に入りやすいこともあり、女は車内で度々乗客の後頭部を観察するといういささか悪趣味な習慣を持っていた。
そして今日見つけたその後頭部は、女の慢性的な睡眠不足を吹き飛ばすほどの衝撃を孕んでいた。
どこぞのファッション雑誌で見掛けるような服に鞄、靴。それは車内で退屈な光景でしかない。しかし、それとは明らかに不釣り合いな後頭部がそこに鎮座していた。不協和音をもし見える*1ことが出来たなら恐らくこんな感じなのだろう。
想像するに、幾度も染め抜かれた金に近い茶髪には、パーマがかけられていたのだろう。しかし、 そのうねりはもはや方向性を失い、あたかも枯れ木の枝のように、いやそれ以上に法則を失って折れ曲がっていたのだ。女性の肩に亀の子だわしが載せられているよりもはるかに違和感がある。
きっと彼女には枯れ木を超越した自身の後頭部など見えてはいないのだろう。女はほんのり彼女の後頭部を憐れんだ。
と、女は視界の隅に一人の男性を見つけた。彼は…そう、女の後頭部が見える位置に立っていた。しかし、彼は女のことなど気にも止めず、携帯に視線を落としていた。
安堵するやいなや、これまでどれだけの人間に自分の後頭部を観察されたのかを思うと、女は壁に背を預けていたい衝動に駆られたのだった。


「今朝、髪がすんげぇ荒れた女の人がいてさ。うへぇ〜って思ったんだけど、これって逆に自分の後頭部も見られてるってことだよねえ」…というのを小説風にコテコテにして書いてみました(inspired by あづ燗)。

*1:まみえる